Vol.125 道具思想の師匠とも言うべき、 Macintoshソフトウェア&ハードウェアの出会い 二宮 章

Maintosh SE upgrade /30

SE30
その当時ボクは和紙で作られた服に魅せられていました。

奈良時代ほどから日本では、和紙を揉んで樹脂加工して強靭にした加工紙で、ウインドブレーカーの様な服を作っていました。これを紙衣(かみこ。紙子とも)と言います。かの空海や親鸞といった名僧の他、豊臣秀吉や上杉謙信などの戦国武将、さらには古田織部のような大茶人や松尾芭蕉のような俳人/文化人、そして江戸の野郎遊女たちに愛されてきました。軽くて防寒性が高く色んな色柄に染まるので、意匠を凝らした羽織に仕立てられ、いわば「革の代用品」として上着に用いられてきたと言われています。
その一方で、極薄の和紙を2~3mmほどの細さで上下を残すように切り、上と下を交互にちぎると、1本の紐のようになります。これを紙縒りにして糸としてどんどん継いでいくと、絹糸よりも強靭な一本の糸が出来上がります。これで織られた織物を紙布(しふ)と言います。これは、麻よりも温かくで丈夫なので、まさに「麻の代用品」として作られてました。特に伊達仙台藩で裃の生地として用いられたことから、非常に高級な染織品として発達してきました。

このような和紙工芸に関する研究を私は、ライフワークとして10代後半からずっと今までしています。またこの業界に携わると、その周辺に寄り添う伝統工芸産業全般にも目を向けることになり、さらには工芸の思想的な拠り所として「民藝」思想にも傾倒していました。その活動の中心時期は、3つの大学に学籍を置いていた11年間のことでした。古い文献の検証は第一としていましたが、一番主たる活動は産地へ赴き、職人や研究者へのインタビューや、職人の作業場の見学でした。

但し、伝統工芸の魅力に取り憑かれてはいたものの、もう一方で、情報伝達としての「デザイン」にも非常に興味がありました。
特に父の仕事の関係で、幼少の頃から父からタイポグラフィの薫陶を受け、方眼用紙に幾つものオリジナルタイポを作っていたりしたものです。なので10代の頃は、ファッションデザインの世界か、もしくは雑誌編集者になりたいなぁ、なんて漠然と考えていたりしたものでした。

そんなボクが1つ目の大学に入学し、某美術サークルに入部すると、1人の先輩がとんでもないものを見せてくれました。
その人はいわゆるコモドールヲタク(本に載るほど有名な人だったらしい)だったわけですが、普段使ってるのはMacintoshPlusでした。その衝撃的なコンパクトさと無限とも言える程のポテンシャル(その先輩がバリバリに使いこなしてたからこそ、良く見えたのだと思うのですが)の高さに、“ツール”としての魅力がたちまち同輩後輩に伝染し、あれよあれよという間にPlusやSEがゴロゴロと溢れていきました。その瞬発力の速さと行動力という意味では、とんでもない美術サークルやったんかなぁ?(笑

そしてボクもその例に漏れずMacを買う訳ですが、MyFirstMacは大学生協で“COOP MAC”として売り出されていた「MaintoshSEアップグレード/30」でした。ちょうど40万円ぐらいになっていて、さらにImageWriterIIもバンドルされているということで、シルクスクリーン版画の制作にちょうど良いと思い、2年ローンで買ったのです(実家での家族会議は、かなり長期戦でしたが!)。

その当時、和紙の文献資料を集めてはテキストデータを作りこんでいたのは勿論ですが、IllsutratorやPhotoshopを使って様々なCGイラストレーションを作ったり、タイポグラフィの作成もしたりしてました。さらにRolandのMIDI音源とADB-MIDIコンバータ使って「Ballade」で音楽作ってたりもしてたなぁ。大学が工学系なので実験結果の解析なんかもSE/30でやってたなぁ。そしてインターネットなんて大学間通信(Telnetで計算式を東大のホストコンピューターに処理させる、とか)しか無かった頃なので、学生間通信はもっぱら「NiftyServe」。いわゆるテレホーダイ時間にずっとメールしてました。メーラーはあの頃は「Eudora」が無敵だったんよなぁ。

とにかく全てのことが、何もかも一定水準以上に、しかもマニュアルなど見なくても直感的に動かせるのは、MacOSの素晴らしいGUIの設計思想のおかげです。ストレスを感じずに直感的にコンピューターを使うという、このハイレベルな使用感覚を自分のスタンダードに持てることこそが、全てのデザイナーがMacを使う理由の第一位だと思いますし、ボク自身が今もずっとMacを使い続ける理由でもあります。自分の行動意識を常に高みに置いてくれるMacは、民藝思想とは別の、道具思想の原型であり師匠みたいなものです。

そしてオールインワンだからこそ“編集屋”としての血が騒ぎ出し、後に和紙情報に関する自費出版への道に足を踏み入れようとします。そこで始めて、最先端のコンピューターテクノロジーと“後世に遺すべき情報”としての伝統産業が融合したデジタルコンテンツが、まさにMacを介して生まれようとするのですが、それはまた別の機会にお話することに。
ちなみに最初に買ったSE/30ですが、2年ほど前までは置き時計(「AfterDark DisneyEdition」のGoofyの逆回転時計が流れています)兼FAX待受(「FAX stf」未だ現役!)マシンとして、24時間年中無休のフル稼働をしておりました。勿論パーツ取り用に別のSE/30も持ってますが、動かしてるのはMyFirstMacそのものです。そのために、毎年発生する”シマシマック”対策で、P1コンデンサを交換してました。今でも稼働したくなるのですが、さすがに全ての可動部がウルサイんですよねぇ。SE/30を静かに稼働させる方法、どなたかご存じないですか?
(中身をそっくりそのままMac miniに入れ替える、なんてことナシでお願いしますよ)

二宮 章
41歳。京都西陣在住。

国内外の最新パノラマムービー情報を配信するブログ「QTVR Diary」責任編集者。
http://pencil-jp.net/weblog/

パノラマVRコンテンツプロダクション「design studio “PENCIL”」主宰。
http://pencil-jp.net/

International VR Photography Association (IVRPA。旧IQTVR)プロ会員。
International Association of Panorama Photographer(IAPP)正会員。

曾叔父は、ライト兄弟よりも数年前に動力飛行機の模型実験に世界で最初に成功した、二宮忠八。

ということで、今回はQTVRDiaryに二宮さんにお願いしました。QTVRに興味がある方は必見のBLOGです。撮影の上でのノウハウや情報が詰まっています。

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