Vol.109 世界最初のデジタルノンリニア編集 斎賀 和彦
AVID/1
QuickTime の登場が、パソコンで映像を扱うことを実現した・・・。象徴的な意味では間違ってはいない。しかし、 QT が生まれる2年も前( 1989 年)に、 Macintosh はプロレベルで映像を編集していた。それが AVID/1 、世界最初のノンリニア(ビデオ)編集システムだった。今なお、ノンリニア編集システムのトップブランドとして君臨するアビッドの初代システムである。そして、それが私と Mac を結ぶことになる。
それまでビデオ編集は2台(あるいは3台)のビデオデッキを同期運転しながら部分ダビングをしていくというリニア編集だった。
当時勤めていた TV コマーシャルプロダクションで、たまたま見た海外の業界専門誌に載っていた記事。
「もう待たない!ノンリニアの時代だぜ」「フレーム単位の精度で楽々だぜい」(意訳)に魅せられ、社長に直談判。バブルに踊る広告業界らしく、「まだ日本じゃ誰も使ってないっす」というセリフが効いて、 3000 万の稟議がおりた。
AVID/1 (何故か日本の総輸入代理店がエイビット・ワンと表記したため、古い業界人はアビッドのことを今でもエービットと呼ぶ)は、 Macintosh IIx を核としたシステムだった。 QuickTime も無い時代。2スロットも塞ぐ MotionJpeg 圧縮ボードを積み、アナログビデオをリアルタイムにデジタイズ(キャプチャーとは呼ばない)した。 20 インチのディスプレイをデュアル接続することが前提のインターフェイス画面は鮮烈だった(もっとも解像度は 640*480 だったので、単なる巨大画面にすぎなかった)。
6スロットのバス(しかも Nu-bus だ)は各種ボードで埋まり、 SCSI でディージーチェーンされた大容量1 GB の HDD (いや、そーいう時代だったんです)が唸りを上げて秒間 30 フレームのビデオを表示する。
そう、すでにその時代に、1秒 30 フレームをコマ落ちせずに編集可能なシステムが完成していたのだ。
もっとも、その分、画質はぼろぼろで、ダビングを繰り返した裏ビデオ並。当時、話題の(?)洗濯屋ケンちゃんに匹敵する画質と、ディレクター仲間では認識が一致したものだ。
言い出しっぺの責任上、このシステムを預かったのが、私と Macintosh のリアルな出会いとなった。
カメラやビデオ機材と異なり、機械的動作が少ないコンピュータは、自分の中にプロセスのメタファーが持てなかったので実は大の苦手だったが、なにしろ使うためには覚えなければならない。
英語システムでしか動かない AVID/1 で日本語タイトルを載せるため、別パーテーションを切って日本語 OS をインストールすることを覚えた。企業のロゴマークを載せるためスキャナを買い、 EDL データを出力するためプリンタを買った。 STUDIO/8 も、初代 Photoshop も、その中で覚えていったアプリ達だ。
気が付いたとき、私は映像のプロを目指していたはずが、デジタル映像のプロと呼ばれるようになっていた。
思えば、この時に私の人生はフェイルセイフを超えていたのだろう。人生好事魔多し、否、人生好事マック多し、だ。
ちなみに、今の私が愛用する Final Cut Pro がリリースされたのは 1999 年。 AVID/1 の登場からちょうど 10 年後の事だった。
Kazuhiko Saika
斎賀 和彦
TVCM の企画演出として多くの CF 制作に携わる中で、ノンリニア映像編集の黎明期に立ち会う形となる。現在は大学や大学院で理論と実践の両面から映像を教える傍ら映像作品を制作する。
http://www.linkclub.or.jp/~upiupi
実は開発系 Web 制作会社フレームワークスタジオの取締役も兼任する。
http://fwstudio.com/
映像のプロとして、活躍され、大学の先生でも有る、斎賀先生の登場です。 マックの映像関係に進まれた方は、一度は教わったことが有るかも、、
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