Vol.99 コンピュータ封建社会からの脱出 鈴木正義

Macintosh SE/30

「電子メールとは、自分のコンピュータの中に手紙が届くことです」そう説明された瞬間、随分不便な世の中になったものだな、という、今聞くととんでもない誤解を抱いた。しかしこれは当時私の職場では誤解でもなんでもなく、オフィスにはIBMのAS400だかなんか、とにかく触れる事自体が苦痛でならないコンピュータの端末がオフィスに数台ある程度で、ただでさえつまらない端末を、先輩に遠慮しながら同僚同士奪い合いで毎日使わなければならない環境であった。言うなれば封建社会の底辺にいたのが私で、電子メールはその末端ピープルに課せられた新たな苦役にしか感じられなかった。コンピュータは封建社会の頂点に君臨する暴君であった。

転職を機に、そんな私が出会ったのが、Macintosh SE30である。新しい会社は、米国に本社を置く会社だったのであるが、設立に当たって投資したベンチャーキャピタルがアップルに投資しているところだったとのことで、会社のコンピュータはすべてMacであった。(ちなみにUNIX系のCAEソフトベンダーで、半導体の設計には欠かせない秀逸なソフトを多数開発している。90ナノプロセスでの光近接補正効果について興味のある方はwww.mentorg.co.jp/をご覧いただきたい。)

とにかくそんな訳で、会社にはMacとUNIXしかないというちょっと変わった会社であった。メールは「Quick Mail」ワープロはWordよりも先に「EG Word」を覚えた。プレゼンテーションは「Persuasion」、データベースは「FileMaker」であった。特に社員の間で好評だったのがQuick Mailで、これは「フォーム」と言われる独自の概念を持ち、メッセージテキストボックス部分の周囲にいろいろなグラフィックをあらかじめ貼り込むことができた。例えば宇宙戦艦ヤマトのイラストを貼付けたフォームで「地球滅亡まであと「 」日」というフォームをあらかじめ作成しておく。このフォームで「原稿レビューのお願い」という題名のメールを送り「あと「 」日」のところを「3」としておくと「ああ、こいつは3日以内に返事をしないと死んでしまうのだな」と相手にそれとなく伝えることができる、という次第である。そんなまわりくどいことをせずに単刀直入に「3日以内に必ず返事をください」と書くのがビジネスの王道であるのは申すまでもないが、そんな回りくどい、ややこしいことを容認しあう、余裕のあるコミュニケーションを促進してくれたのがこの「Quick Mail」であった。

そうこうするうちに悪ふざけもエスカレートして、ついにある時「システムエラーがおきました」という爆弾マークをメールに貼付けた不届きが出現し、このマークを「ホンモノ」と間違えて再起動する社員が続出し、文字通りシャレにならない状況となった。しかしこの頃、私にとってコンピュータは、というかMacはもはや封建社会の暴君ではなくなっていた。

その後この企業も世相を反映しWindowsへの移行が始まったが、Mac派の抵抗も長く続き、小生の部署も「Macでないと、イラストレータやクオークのファイルが開けない」という理由でMacを使い続けた。

そうこうするうちに、上司が変わった。国立大学卒、英語堪能、年齢不詳、国際法規にも明るいキャリアウーマンで、数えきれない位の女子社員を給湯室送り(つまり泣かすということ)にしたコワモテである。折しも地下にもぐったMac派に煽動され、Power Mac G3を買っちまうぞ、という決断をした時にである。流石に理由を仔細に聞かれた。「え~本社が用意したデザインが、合っているかどうか、印刷屋に回す前に自分たちで開いてみる必要があるのですぅ~」油汗をかきながら、苦しい言い訳を並べた。開くだけならPDFで送ってもらえば十分だよな、と自分で内心突っ込みながら。結局、本体のみの購入、モニタはサードベンダ製のブラウン管タイプを使用することで決裁を取った。純正の液晶モニタは冷酷無比な判断をする彼女には到底通用しないと、ハナからあきらめていた。しかし、G3が設置されるや、かの上司に大喝された。

「鈴木さん、これ(G3)にこのモニタでは格好悪いじゃありませんか。これに合うもっといいデザインのモニタがAppleから出ているでしょう」という意外なものであった。

結局純正の液晶ディスプレーもスグに導入され、その勇姿を拝みに、暫くの間Mac派の参拝客が小生の席に続いた。

あれから数年、かの上司も小生もその会社を退職したが、今でも交流は続いている。

アップルコンピューター
鈴木正義
昭和40年生まれ 東京都出身。
本文中にあるように仕事を通じてMacと出会う。鈴鹿サーキット、ボッシュ、古館プロ ジェクト、メンター・グラフィックスを経て2004年6月よりアップルに入社。
趣味:オヤジ野球、人間観察。
アップルの広報課課長の鈴木さんです、UGのサポートなどで、お世話になっております。

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