Vol.79 買うor聴く? 斉藤 安則

iPod
買うor聴く?
「iPod~?!重いし、だいたい、歩きながら音楽なんて聴かないよ。」
これが1年前、iPodについての感想を聞かれた時の私の第一声。
長年のレコード(CD)コレクションの大半を占めるアナログ盤は、とてもタイトルをタイプする気になれず、手にしたiPod にはCDばかりを片っ端から読み込んだ。
私の経営する会社の社名の由来である“BIRD”ことチャーリー・パーカーの曲は、JAZZを熱心に聴いていた二十代の頃には、実は全然聴いておらず後ろめたい気分だったのでコンプリート盤を購入してきた。大好きなオーネット・コールマンの収集はアナログ盤ばかりだったので、最近発売されたタイトルしか入れられなかった。それでもアルバート・アイラーを中心に60年代のフリージャズの名作を相当数、納めることが出来た。iPodによって私の音楽人生はすっかり変わってしまったようである。自分にとってJAZZを歩きながら聴くという行為は、例えていうなら歩きながら食事をするようなもので、とんでもないことだったのだから。
音楽の聴き方には、真剣にスピーカーの正面に立ち向かう鑑賞派と、何かをしながらだら~っと流す、ながら派に分けた場合、私は鑑賞派の最右翼だと思う。それも今は無きジャズ喫茶派である。会話禁止、アルコール禁止、読書禁止、聴く行為以外に許されるのはタバコのみ。こんな伝説のような方法で20年以上音楽を鑑賞してきたものだからヘッドフォンステレオを所有した事も無いし車にもCDは置いていない、ラジオもつけない。その結果、音楽を聴くチャンスが減っていき、ついに!全然聴けなくなってしまった。それでも世の中に新譜はどんどん発売され、とても追いつけない。最近は記憶力も衰え同じCDを2枚も買ってしまったり、購入しようと迷ったタイトルをすでに持っているのか持っていないのかが、わからなくなる始末だ。「買う」が「聴く」を追い越してしまった。
iPodを使うようになってから、私の音楽の扱い方が変わった。随分ラフになり、身近になった。音楽を聴くってことはこんなに簡単なことなんだと初めて気がついた。今では、マイルス・デイビスの後に椎名林檎が歌っていてもピアソラが流れても驚かないし、ブラームスから蒸気機関車のドラフト音まで何でも有りである。
今、買い続けた膨大な在庫をiPodに読み込み消化の最中である。そして再び新宿ディスクユニオンに向かう日を夢みている。本当によかった。これ、全てiPodのおかげかな。
「iPodですか、そりゃあもう最高です。」
(斉藤 安則)
株式会社バード電子の斉藤社長のエッセィです。音楽大好きな斉藤さんのこだわりある音楽感がいいですね。最近のiPod関連のグッズの展開の理由がわかった気がします。
(MacTreeProject)
斉藤 安則
株式会社バード電子 代表取締役 北海道留萌市出身、サラリーマンを3年やってJAZZ喫茶開業の為に退職するが、資金が足りなかったので、断念し普通の会社を設立。設備用のスイッチ、クリックバードを開発。全国の工場に10万台以上の納入実績。今もメインはこの仕事です。自分のノートパソコンを冷やす為に作ったインタークーラーが、水谷成智氏の「極私的PB2400の頁」で紹介され。大ヒット。楽しみながら、JAZZ喫茶開店を夢見てがんばってます。
http://www.bird.ac/
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