Vol.75 AppleScriptで「Macintosh第2章」がはじまった 長野谷隆昌

AppleScript

Macとの付き合いも、早いもので10年以上になる。最初に買ったMacintosh IIsiや、格安で入手してPowerMacにアップデートしたQuadra 840AV、初めてデスクトップの代替たりえたPowerBook 2400c/180、ムービーを作りはじめるきっかけとなったPowerMac G4/350、AirMacとの出会いをもたらしたiBookタンジェリンなど、思い出深いマシンは枚挙にいとまがない。

現在使っているのは12インチのPowerBook G4/867。このマシンも、AirMac ExtremeとiSightとの出会いをもたらしてくれた。ただ、これとて「通過点」でしかないのだろう。

自分はハードウェア自体に愛着を抱くという性分ではなく、マシンは新しくて速い方がよいと感じている。新しいマシンに乗り換えても、変わらずに同じMac OSとアプリケーションを使い続けるわけで、ハードウェアとの付き合いよりも、ソフトウェアとの付き合いの方が、長く、深いものとなる。

そうした中で、自分が一貫してMacを使い続けている理由は、実にシンプルだ。
「AppleScriptが使える環境だから」……そのひとことに尽きる。Mac OS側がこの機能を提供していること、世界中の多くのアプリケーションがAppleScriptに対応していること、AppleScriptを支える多くの仲間がいること……。

場面は、いまから6年ほどさかのぼる。ちょうどインターネットがブームになって、皆でアナログ回線からISDNに乗り換え、夜な夜なPowerMac 8500/150でチャットに興じていた頃のことだ。ちょうどその頃は、Macの用途や、Macがもたらしてくれるものに「飽き」かけていた。文字どおりの倦怠期だ。
アプリケーションも使えるようになったし、HDDの交換やメモリの追加、周辺機器のセットアップも楽勝でできるレベルになると、一種の閉塞感というか頭打ち感を抱えることが多くなった。Macを単なる「文房具」として見るかぎりは、文房具の使い方を覚えてしまえば、それでおしまいなのだ。Macはすでに完成された「道具」であるがゆえに、作られた道具としての機能を超えて何かを行うには、発想の転換が必要だった。

だが、偶然にではあるが、その機会は部署の異動という形でやってきた。紙の媒体からWeb媒体の部署に異動し、そこではMacを使って仕事をすることができたのだ。紙媒体の原稿をWeb用に再編集するといった内容だったのだが、やり出すとどんどん作業量が増えてきた。

しまいには、数千品目ほどの製品カタログをWeb上に掲載する仕事も発生。どう考えても手作業では不可能だった。元になる製品データベースについては優秀な同僚が部下を使って緻密な作業をしてくれたので、まったく問題はなかったのだが、それをすべてHTML化するにはどうしたらよいのだろうか?

そこで、白羽の矢を立てたのがAppleScriptだった。ファイルメーカーProの勉強をしている途中で、他のアプリケーションをコントロールしたりファイルに書き出したりする話になると登場したAppleScript。
「これをどうしても理解しなければならない。理解しなければ手作業地獄が待っている」
もともと8ビットの時代にBASICやアセンブラでプログラムをしていたので、自分が知っている言語とどう違うのか、制御文はどう書くのか、配列変数はどういう扱いになっているのか、世界中のWebを検索しまくって調べ、なんとか1週間ほど
でAppleScriptの全体象を把握。2週間ほどでデータベースからHTMLの生成が行えるようになった。
AppleScript対応のアプリケーションは海外産のものが多かったので、海外のアプリケーションを調べることが多くなった。また、OSAXと呼ばれる機能拡張書類によって命令をどんどん増やすことができるため、世界中のOSAXを集めては試しまくった。
1か月たった頃には、ネットワーク上の他のMacのCD-ROMを一斉にオープンさせたり、他のマシン上でルパン3世のオープニングメッセージを表示させるなどの「遊び」ができるようになっていた。
アプリケーションやOSに指令を与え、縦横無尽にMacをコントロールできるようになると、Macがまったく別のものに見えてきた。ふだん何気なく使っていたMac OSが、アプリケーションが、内緒でこんな便利な機能を隠し持っていたのか! と、まるで、RPG(ロールプレイングゲーム)をクリアした後にプレイできる「裏面」の世界に突入した気分。しかも、その「裏面」たるや、雑魚モンスターも大魔王も自分の思いのままに操れる世界なのだ……。

消しゴムや鉛筆をかき集めて月ロケットを作れてしまう、「ありえない」世界。それが、AppleScriptの世界だった。さすがに消しゴムや鉛筆は言い過ぎかもしれないが、秋葉原のジャンク屋で買ってきた部品で月ロケットが格安に組み上げられるとはいえるだろう。

簡素な英語の表記で記述できるAppleScriptは、アセンブラやBASICの世界からすれば、人の言葉と同じようなレベルの言語に思えたのだが、では、プログラミングをまったく知らない他人にAppleScriptを理解してもらうことが容易かといえば……簡単と
いえどもさすがにプログラミング言語であるため、一筋縄ではいかなかった。
「ここまで人の言葉に近いんだから、AppleScriptが日本語をそのまま理解してくれてもいいだろうに!」

そう考えるのにさほど時間は要さなかった。
数年後。偶然、Microsoft Wordに日本語の要素解析能力があることを発見。そこから、Mac OS X用人工知能インタフェース「Newt On」を作り上げた。もちろん、NewtOnはAppleScriptですべて記述したプログラムだ。「来週の金曜日に会議を予約」といった、日本語の命令をMacが理解して勝手にアプリケーションを動かせるようになったのだ。

このNewt Onを、文字ベースのCUI、グラフィックベースのGUIの後に来るべき「人工知能インタフェース(=ABUI)」と位置づけ、仲間と一緒に日々開発を進めている。
……この文章は8月の頭にはほとんど仕上げてあったのだが、この夏にも2つの新たな成果があった。1つは、iChat AVビデオチャットの接続確認用「オートレスポンダ」を開発、運用を開始したこと。もう1つは、Mac OS X用日本語音声認識コマンドセンター「符令韻投句」を開発したこと。これによって、Macは日本語の音声で自由にコントロールできるようになった。

Macとの出会いがなければ、また、相棒の高松氏やSSFactory氏をはじめとする多くの仲間との出会いがなければ、このような成果は達成できなかっただろう。
そして、これからも多くの仲間とともに、誰も見たことも聞いたこともないようなものを作って行ければと思っている。

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(参考資料)URL一覧

■Mac OS X用人工知能インタフェース「Newt On Project」
http://www.airmac.org/newton/newton.html
■Mac OS X用日本語音声認識コマンドセンター「符令韻投句」(ムービー)
http://homepage.mac.com/baka_movie/plaintalkx.mp4
■AirMac+ブロードバンド情報サイト「On The Air」
http://www.airmac.org
■iSight情報ページ「カオガミエル」
http://www.airmac.org/isight/
■AppleScript情報ページ「AppleScript Magic Room」
http://www.airmac.org/applescript/
■Keynote情報ページ「東京基調講演」
http://www.airmac.org/keynote/
■バカムービー研究会
http://www.appleco.jp/quicktime/
■厚振湖観光協会
http://www.appleco.jp
■個人ページ
http://plaza8.mbn.or.jp/~ll
(長野谷隆昌)

アップルユーザーグループミーティングの東京地区の代表、あるときはバカムービー研究会、On The Air、と様々な立場で、活動されています。あの素晴らしいデモは、一度見る価値アリです。

(MacTreeProject)

長野谷隆昌
Takaaki Naganoya

1968年8月8日生まれ獅子座O型、王者の星の下に生まれながらも腰の低さがウリの普通の人。MacとAppleScriptを中心にさまざまな活動を行っている。バカムービー研究会、On The Air、東京基調講演、Newt On Project、ジャーミネータで音楽クラブなど多数の団体を組織。AirMac+ブロードバンド情報サイト「On The Air」のほか、iSight情報サイト「カオガミエル」、AppleScript情報ページ「AppleScript MagicRoom」を運営中。支出ばかりで利益を生まず、膨大なコンテンツ作成/活動を行うこれらの団体は「長野谷浪費コンツェルン」と呼ばれ、夏の風物詩として皆に親しまれている。Apple Users Group Meeting/Tokyoの代表だが偉くない。著書に、AppleScriptの魅力を綴った「Mac使いへの道」「AppleScriptリファレンス(グループ共著)」、「REALbasic使いへの道(共著)」がある。目下、Macintoshプラットフォームの魅力を十二分に発揮させるお仕事を探している……。

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